株券法律問題の Q & A

● 新会社法の対応

Q 会社法の施行により株券記載事項はどのように変わりましたか。  

A 平成18年5月1日に新会社法が施行されました。会社法第216条による
株券の必要的記載事項は以下のとおりです。


(1)代表取締役の
記名押印

(2)商号

(3)株券にかかる
株式の数

(4)
譲渡制限がある場合はその文言

(5)
種類株式発行会社においては株式の種類及び内容

 (種類株式発行会社とは種類株式を現実に発行していなくても、定款上その発行可能性をうたって

いれば種類株式発行会社になります。

  種類株式発行会社が普通株式にかかる株券を発行する場合は、

株券に「株式の種類:普通株式」と記載せねばなりません。)

株券発行年月日」、「株主氏名」、 「会社成立年月日」の3項目は株券に記載しても株券の効力を無

効にするものではないと考えられております。

(平成18年4月14日全株懇理事会決定「会社法制定に伴う株券標準様式の取扱いについて」参照)
 参考図書 中央経済社 (会社法対応「株式実務ガイダンス」) 65頁

 新法の会社法による場合は、株券は
原則として無記名証券であり、表の券面に「この株券

所持人が株主である
」旨記載されます。

 旧法たる商法の慣習を引き継ぎ「
株主氏名」を記載する場合は、無記名債券ではなく手形と類似し

指図証券であり、「記名者が株主である」旨記載されます。指図証券方式もいまだに有効と考え

られます。

● 株券の「裏書制度」について

(旧商法の慣行に沿った指図債券方式を採用した場合です。新会社法では無記名証券方式を採用し

ましたから裏書き制度は無意味かつ無意義です。)

 株券の裏書きについて商法上も会社法上も根拠が見あたりませんが、それなのに、裏書き欄の

無い株券は見あたりません。何故ですか。


 (1)昭和36年最高裁判例は、株券を
指図証券から実質上”半”無記名証券へ変わりました。
 この判例の趣旨は以下のとおりです。

 「株券の裏書による記名株式の譲渡には、譲渡人の署名または記名捺印を要することは、商法

205条2項、 手形法13条の明定するところである。したがつて、このような方式を欠いた裏書譲渡は

原則として無効と 解すべきである。しかしながら、記名は、署名と違つて、何人がしても差支えない

ものであるから、裏書欄 に前株主の捺印のみある株券の交付をうけた株式譲受人は、裏書人の記

名の補充権を与えられたものとして 、かかる譲渡を有効と解しうるであろう。

したがつて、譲受人が記名を補充すれば、そのときから株式の所持人としての形式的資格を取得し、

会社に対して株主名簿の名義書換を請求しうる。しかして、捺印のみの 裏書で株券の交付をうけた

株式譲受人が、譲渡人の記名を補充せずに名義書換を請求した場合においても、 請求者は、譲渡

人の記名の補充を会社に依頼したと解する余地がある。」
 

 (2)この判例によりAからBへ株式を移転した場合に、裏書き欄にAの記名がなく印鑑がある株券

が流通するようになりました。株券は旧法時代に実質的に
指図証券から半無記名証券へ転

換しておりました。

  この最高裁判例を受けて、昭和41年に商法が改正され、株券の裏書き制度は廃止されました。

手形なら 裏書人にも責任が発生する担保的効力がありますが、株券には担保的効力がありません。
(イ)権利移転効力と(ロ)(善意取得を認める)資格授与的効力のみが認められるだけですので、裏

書きの必用性はありません。

 (3)以上の経緯から、平成18年5月1日に施行された新会社法では明確に
無記名証券方式を

採用し、株主名を株券の法定記載事項からはずしました。

 (4)ところが、実務界では裏書きの連続を前提とした考えや取扱が未だに残存しております。

 困ったものです。商慣習が法律を無視しているとしか言えません。

 新会社法施行時の平成18年から平成20年ぐらいまでは、弊社に依頼するお客様の大多数(9割

程度)が
株主名を記載する指名債券方式を選択されておりました。

 その後、段々株主名記載方式は減少し、最近では8割以上のお客様が株主名を記載せぬ会社法

に沿った
無記名証券式を依頼しております。

 あえて指名債権方式を採用した場合の裏書きの方法はどうするのでしょうか。

 前述のように、裏書き制度自体が法的根拠の無いいい加減なものです。 A→B→Cと移転する

場合は、第1裏書き欄にBの名前を書きその右横にAの印を押すのが本則です。Bの名前の右横に

 株券発行会社の印を捺印をしても良いと考えます。

● 譲渡制限規定の設置又は廃止

Q 譲渡制限の無い会社が、譲渡制限規定を設けた場合や、譲渡制限規定を廃止した場合は、新た

に発行する株券の発行年月日は前の株券の発行日でしょうか。 

 それとも、譲渡制限規定設置後の新たに発行する日付でしょうか。

A 登記簿および定款上譲渡制限規定がある会社が、譲渡制限の記載の無い株券を発行して しま

った場合、会社は株主に対して、譲渡制限 規定の存在を対抗できなくなります。したがって、譲渡制

限規定のある会社は株券を全部回収して、その券面に譲渡制限の規定をゴム印などで記載すれば

OKです。

 譲渡制限規定を追加記載する代わりに新株券を発行してもかまいません。その場合は、譲渡制限

規定の追加記載は、単なる「変更」にすぎません。ですから、代わりに発行する株券の発行年月日も

前の発行年月日を記載すべきとの意見もありますが、そうすると譲渡制限規定変更日とバッティング

します。この場合は、譲渡制限追加日以降の株券発行日を記載すべきです。

 譲渡制限を廃止した場合も、上記の趣旨のとおりです。

● 株券の紛失

 株主が株券を紛失どうすれば良いのですか。

 旧法では、公示催告して除権判決をえねば、再発行できませんでしたが、平成15年4月以降の

新法では、「株券失効制度」ができ、紛失した場合の不便が少し減少しましたが、やはり紛失すると

やっかいです。株券は、紛失せぬよう充分ご注意ください。

 具体的な手続きを述べてください。

 株券を喪失した株主は、会社に対して、警察署発行の遺失届出証明書、消防署発行の焼失届出

証明書等喪失事実を証明する資料を添えて、喪失登録の申出をします。

 喪失登録の申出があると、会社は、株券喪失登録簿に必要な事項を記載します。(申出人が名義

上の株主と異なるときは、名義上の株主に対し、喪失登録がされたこと及び株券が無効となる日を通

知します。これは、名義上の株主が知らない間に株券失効ということにならないようにするためです。)

 また、会社は、第三者たる所持人より名義書換請求があったときは、その株券提出者に対し、その

株券につき株券喪失登録がある旨を通知する義務があり、株券の喪失登録抹消日または効力失効

日までの間は、名義書換をすることはできません。株券喪失登録簿は本店に備え置きし、何人にも閲

覧可能にします。

 登録異議の申請が無いまま喪失登録日の翌日より一年を経過すると、喪失株券は無効となり、初

めて登録者は初めて発行会社に対して株券の再発行を請求することができます。

● 株券上の「定款の定めにより」の文言について

Q 「本株券は当会社の定款の定めによりこの株券所持人(又は記名者)が上記株数の株主であるこ

とを証する」という文言はおかしくないか。定款にそのような定めは無い。                 

A 会社法214条「株式会社は、その株式に係る株券を発行する旨を定款で定めることができる。」

規定しています。214条を受けて、株券上「定款の定めにより」と記載します。

 

「定款の定めにより」という文言は、「株券発行会社である旨の定款の定めにより」と同じ意味です。

                               

『「株券発行会社である旨の定款の定めにより」株券所持人又は記名者が「が株主であることを証す

る」有価証券であり、法定効果として権利推定効と善意取得効がある。』と読み替えることが可能で

す。 

       
 経営参画意識を持ってもらうために従業員に株式を持たせたいが、退職し

たときには株式を返却させる方法

Q 従業員に株式を持たせ、退職したときは当該株式を返却させる方法如何

A そのような内容を明確にした種類株式を発行する手もありますが、実用的で

はありません。「甲社従業員持株会」という民法上の組合を作り、組合が株主に

なります。その組合契約の中で、退職した場合は株式を放棄するという旨定め

ておきます。

● 種類株式発行可能性にとどまる定款がある場合

Q 当社は、定款上種類株式を発行できる旨の記載がありますが、実際には普

通株式しか発行しておりません。その場合でも「株式の種類」を株券に記載する

必要はありますか。

A 御社は、現実に種類株式を発行していなくても、定款上その発行可能性が

あるだけで、既に種類株式発行会社なんです。従って、普通株式を表す株券券

面上にも、
「株券の種類 普通株式」と記載せねば、会社法第216条違反になり

ます。


● 法人番号 

Q 会社成立年月日の換わりに、会社の法人番号を記載しても良いか。

 
A 会社成立年月日は、同じ商号の会社間での特定性確保のために記載します。マイナンバー法に

よる法人番号の記載は、国税庁のHPを使えば検索も可能ですし、すばらしい考えです。

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